カウンセラーの「資格」

2015年の秋に国会で「公認心理師法案」が可決されました。関係者の念願でもあった(賛成反対もいろいろあった)、心理職の国家資格化がついに実現したのです。

とはいえ、法案が実際に動き出すにはもうしばらくの時間が必要です。

「カウンセラーにはたくさん資格があるみたいだけど、どう違うの?」と聞かれたので、現在の代表的なカウンセラーの「資格」について説明します。

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追記:2018年(平成30年)9月9日に第一回公認心理師資格試験が行われます。「公認心理師」の項目を以下に追加しました(2018年2月22日)

公認心理師

公認心理師とは、保険医療、福祉、教育その他の分野で、心理学に関する専門的知識や技術を用いて次のような行為を行う者と定められた国家資格です。

(1)心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
(2)心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
(4)心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供

心理技術職の国家資格については、これまでもたびたび議論されてきたのですが、なかなか実現しませんでした。病院などで一緒に仕事をすることも多い精神保健福祉士は、平成10年には国家資格になっています。同じ頃に「臨床心理士の国家資格化」についても議論されていたのですが、心理学領域の内部の意見がまとまらないことや、医師会・精神病院協会などとの意見のすり合わせができずに頓挫したという事情がありました。

この度の公認心理師の国家資格化にも、賛否両論ありますが、国家資格ができたからには、制度や運用はこの資格を軸に展開されていくことになるでしょう。

臨床心理士や産業カウンセラーといった既存の資格との関連がどうなっていくかはまだわからないことも多いのが事実です。しかしおそらくは、多くの現任者たちが、公認心理師の資格も取得することになると思われます。

公認心理師は、主に医療領域で活用されることになると予想されます。先日、5日間の「現任者講習会」に出席してきたのですが、そこでの一連の講義の印象では、「チーム医療」「地域支援」のメンバーとしての活躍が期待されているのだと感じました。もちろん、これまで担ってきた「心理アセスメント」も公認心理師の仕事となるでしょう。ただ、「個人心理療法」「カウンセリング」については、正直、あまり重きを置かれていないようにも思われます。

現在は、医師や看護師が行う「認知行動療法」は、診療報酬に算定されています。公認心理師もいずれは認知行動療法を行う役割を持つのではと予想されます。ただし、診療報酬に定められている認知行動療法は回数も16回と限定されていて、マニュアル通りにしなければならないという、現場の感覚から見れば柔軟性に乏しくて使いにくいものになっています。

「通院精神療法」や「精神分析療法」なども診療報酬に算定されていますが、これは現在、医師のみが行えることになっています。

医師の指示のもとで通院精神療法を公認心理師が実施できるようになればよいのですが、医療経済的な面や「大人の事情」(ってなんだ)でたぶん実現しないでしょう。

個人心理療法は、開業カウンセラーが担っていくことになるのではないかと予想しています。

 

臨床心理士

カウンセラーにはいろいろな資格があり、臨床心理士はもっともよく知られている資格でしょう(テレビドラマなどでカウンセラーが登場するときも、最近はたいてい「臨床心理士」という肩書ですね。福山雅治さんの『ラヴソング』とか。見てないですけど)。

公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会によって認定される資格で、基本的には、臨床心理士を養成している指定大学院を修了していること(つまり修士号をもっていること)が受験資格となります。

また、「臨床心理士倫理綱領」や、5年ごとの資格更新制度(研修会や学会に参加するなどの研鑽を積まないと資格を失ってしまう)などが定められています。

臨床心理士に求められる「専門性」として、次の4つの領域が挙げられます。

  1. 心理テストなどを用いての心理アセスメントに精通している
  2. 一定水準のカウンセリングや心理療法の能力
  3. 地域の心の健康活動に関わるためのコーディネートやコンサルテーションの能力
  4. 心理臨床の実践に関する研究と調査

ようするに、カウンセリングはもちろん、心理テストもできないといけないし、研究や調査を行なったり、地域でメンタルヘルスに関するさまざまな活動もできなきゃいけないというのが臨床心理士に求められる専門性ということになります。

大学4年、大学院2年と学んでも、すべてに精通するのはなかなか難しいので、臨床心理士になってからも、ずっと勉強しつづける必要があります。

1988年から、資格認定が始まり、2016年現在で3万人を超える臨床心理士が認定されているとのことです。この文章を書いている私の臨床心理士の登録番号が確か7000番くらいなので、「いつの間にそんなに増えたのだ」と思わなくもありません。

精神科や心療内科などの病院で勤務しているカウンセラーの多くは臨床心理士ですし、スクールカウンセラーも臨床心理士が担っていることが多いと思われます(地域によって多少、違いはあります)。

もちろん、臨床心理士だから優れたカウンセラーだ、というわけではないのです。(臨床心理士は頭でっかちで融通が利かない奴が多い、なんて批判を聞くこともあります)。ただ、大学院で学んでいる人が多いのでカウンセラーとして知っておくべき最低限の知識や倫理規範を備えているだろうという期待はできます。したがって、カウンセラーの「専門性」を見るうえで、ひとつの目安にはなるでしょう。

産業カウンセラー

働く人たちのメンタルの援助をするのが産業カウンセラーです。一般社団法人日本産業カウンセラー協会によって認定される資格で、産業カウンセラーとその上位の資格であるシニア産業カウンセラーがあります。以前は、初級、中級、上級と分かれていたようです。

産業カウンセラー協会のサイトには、次のように書かれていました。

産業カウンセラーの使命は、働く人の上質な職業人生(QWL:Quality of Working Life)の実現を援助し、産業社会の発展に寄与することです。

産業カウンセラーの役割は、

  1. メンタルヘルスに関する援助
  2. キャリア開発の援助
  3. 職場の人間開発援助

の3つが主なものとされています。企業内で相談業務に携わったり、職場の人間関係を改善する研修などを行なっていることが多いようです。

協会では、全国各地の支部に相談室を開設しており、また「働く人の悩みホットライン」という無料電話相談を通年に渡って実施しています。

精神保健福祉士

精神科ソーシャルワーカー(PSW:Psychiatric Social Worker)とも呼ばれている資格で、主に精神医療の現場や地域で精神障害者の心の健康や福祉に関する支援を行なっています。

保健所の精神保健相談員も精神保健福祉士が担当することが多いと思います。

平成10年に国家資格化されました。その頃、心理職の国家資格化も同じように検討されていたのですが、心理の方は関係者のコンセンサスが得られずにお流れになりました。

勤めていた精神科の病院の同僚たちが、仕事の後に受験勉強に出かけて大変そうだったのを覚えています。

精神保健福祉士も他のカウンセラーと同じく相談業務に携わりますが、基本となる考え方は心理学ではなく福祉学です。

精神障害者や家族の相談に応じて、必要な機関(医療やデイケア、作業所などです)を紹介したり、さまざまな福祉制度(障害者手帳や生活保護の申請、各種の給付制度や減免措置など)の情報を提供します。書類の作成を手伝ったり、退院後の住居探しや日常生活の助言、支援、就労支援など、仕事の範囲はかなり広いと言えます。

カウンセリングを行なうこともあれば、ソーシャル・スキル・トレーニングなどのグループワークをしたり、精神障害者が地域で暮らしやすいようにするためのさまざまな活動に携わります。

臨床心理士が、心の内面に目を向けるような援助を行なうことが多いのと比べると、より現実的な支援をしていくのが精神保健福祉士だと言えるでしょう。

より詳しいことは、公益社団法人日本精神保健福祉士協会のサイトを見てください。

学校心理士

日本教育心理学会、日本特殊教育学会、日本発達障害学会、日本発達心理学会、日本LD学会の5つの学会が共同で運営している一般社団法人学校心理士認定運営機構が認定する資格です。

名前の通り、学校で子どもが抱える学習や、心理、人間関係、進路などのさまざまな問題に対する支援を行なう専門家が学校心理士です。

教育現場や教育センターなどで働いており、

  1. 教育的なアセスメント
  2. カウンセリング
  3. 保護者や教師へのコンサルテーション
  4. 学校組織の支援・コンサルテーション

などの役割を担っています。現在、4000名ほどの学校心理士が認定されて、活躍しているそうです。教師としての経験をある程度もっていると受験資格が得られるとのことなので、学校の先生が取得するという場合も多いと思われます。

臨床心理士会と文部科学省の関係が良かったことなどが影響してか、「スクールカウンセラー」は臨床心理士が行なっていることが多いですね(文部科学省のスクールカウンセラーの任用規程は「精神科医」「臨床心理士」「大学教員」となっているようです)。

臨床発達心理士

一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構が認定する資格です。人の健やかな育ちを支援する専門家で、発達心理学をベースにしています。臨床心理士と同じく、大学院修士課程修了者を基本としていて、5年ごとの更新制度もあります。日本発達心理学会・日本感情心理学会・日本教育心理学会などの関連学会による連合資格とのことです。

とのことで、具体的には、次のような問題に対応します。

臨床心理士と比べると少しマイナーな印象がありますが、専門性の高い資格です。

その他のカウンセラーの資格

いろいろあって、覚えきれないほどなのですが、学会認定の資格をずらりと並べてみます。その他にまとめてしまってすいません。。

どちらかというと初級者向けの資格としては、

などが挙げられるでしょうか。

また、特定の学派や技法を専門的に身につける資格としては、

などがあります。

他にもたくさんあるような気がしますが、だんだん目が回ってきたのでこのへんにしておきます。

それぞれ、受験資格の難易度も違えば、特徴も違います。

先にも書いたように「この資格を持っているからいいカウンセラーだ」とは一概には言えないのです。

でも、ここで挙げたような資格をもっていない人でも優れたカウンセラーはいますし、ぜんぜん力のない臨床心理士もたくさんいます(と自分のことを棚に上げて言ってみる)。

とはいえ、「資格」について尋ねてみることで、そのカウンセラーがどのような考え方をもっていて、どんなトレーニングを積んできたかを知るための手がかりにはなると思います。

 

資格に関するこの文章は、

相談先はどこ? 失敗しないカウンセラーの探し方、選び方

という記事を書いていて、「カウンセラーの資格」についてのところが長くなりすぎたので、分けてみたのでした。

 

カウンセラーや心理臨床家としての「資格」については、

職業としての心理臨床家

という文章に、もう少し個人的な考えを書いていますのでよかったらお読み下さい。

 

神戸・芦屋・西宮のカウンセリングルーム★かささぎ心理相談室

 

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