ストレスとうまくつき合おう! ー中学生のためのストレスマネジメント講座
中学生を対象に、スクールカウンセラー として「ストレスとうまくつき合おう!」というテーマでお話させていただく機会がありました。
「10分くらいでストレスについて話をして、簡単なリラクセーション法を体験してもらうこと」
というのが、養護教諭の先生からいただいたお題です。
次のようなことを話したので、こちらにも書き留めておきます(ちょっと加筆しました)。
ストレスへの3つの反応
保健委員のみなさんが上手にまとめてくださったように、ストレスに対して人はいろいろに反応します。
反応の一つは、
「闘うか逃げるか」
というものです。
夜道を歩いていて野良犬に追いかけられたとき、戦って追い払うか、それとも逃げるか、といった行動を選ばなくてはいけません。
明日がテストだ、というときには、眠くてもがんばって勉強することが「戦い」となる場合もあります。
もう一つの反応は、
「凍りつく・固まる」
というものです。
ネズミは猫に追いかけられて捕まってしまうと、死んだように硬直してしまうことがあります。
死んだネズミなんていらないよ、と猫が飽きて行ってしまうこともあるので、ネズミにとってはこれも生き延びるための反応です。
人間も同じように反応することがあります。
乗っている飛行機が事故を起こして墜落しそうなとき(そういう事態には巻き込まれたくありませんけれど)、意識を失ってしまったり、あるいは周りが急にスローモーションで動いているようになり、恐怖を感じなくなる、ということがあるのです。
三つ目の反応は、
「つながる」
というものです。
「支える・支えられる」反応と言い換えてもいいでしょう。
これは、ヒトをはじめとした哺乳類が、特に進化させてきたものです。
災害などのストレスフルな出来事が起こったとき、私たちはいつもより他人に対して親切になり、なんとか手助けしようとします。あるいは、「助けて」と人に頼るのも、この「つながる」反応です。
周りの人たちと支え合い、協力し合いながら、出来事に対応することで、私たちはより適切にストレスを扱うことができるようになります。
大丈夫ゾーン
私たちの体は、緊張や興奮とリラックスの間を行ったりきたりしています。みんなそれぞれ、これくらいの範囲なら大丈夫、という「OKゾーン」「大丈夫ゾーン」があるんです。
「ちょっとイライラしているけど、まだ大丈夫。お風呂に入ってリラックスすれば落ち着くだろう」
「落ち込んでるけど、おやつを食べてお母さんに話を聞いてもらったら大丈夫」
この「大丈夫ゾーン」を上に飛び出してしまうと、緊張が高くなりすぎて、「キレて」しまったり、ずっと怒っている状態になります。
逆に下に飛び出してしまうと、ぐったりして気力がなくなり、「学校に行きたくない」「布団から出たくない」「何もしたくない・できない」という状態になります。
自分が今、どのあたりにいるかを感じて、上下に飛び出してしまう前に、うまく対処できるようになるといいのです。
また、ストレスマネジメントが上手になると、この「大丈夫ゾーン」の幅も広がっていきます。
リラクセーション法
では、少し楽に座ってみてください。
これからいっしょにリラクセーション法の練習をしてみましょう。
まずは、からだの緊張をほどきます。
両手をぎゅっと握りしめてください。ぎゅーっと力を入れて、その後で、ふわっとゆるめてみましょう。
手のひらから力が抜けていくところを感じてください。
何度かやってみましょう。
今度は、両肩を耳の方にぎゅっと上げてください。しばらく力を入れて、それからストーンと落とします。もう一度上げて、肩甲骨を近づけて胸を開きます。今度はゆっくりと肩を落としながら、じんわりとゆるむのを感じてください。
足でもやってみましょう。足の指にぎゅっと力を入れます。太ももにも力を入れます。それから、ふわっとぬいてみましょう。
今度は顔です。顔って、意外と緊張するものなんですよ。顎に力が入ったり、眉間にシワが寄ったり。まず目をぎゅっとつぶって、唇を尖らしたり、顔をしかめたりして、顔面に力を込めてください。目をつぶってるので、思いっきり変顔をしてみても大丈夫です。
フワーッとゆるめてみましょう。何度かやってみて、ゆるむのを感じてください。
今度は、もう一度力を込めて、変顔を作って、隣の人とにらめっこをしてみましょう。
ちょっと笑うと、リラックスできますね。
また楽に座ってください。
ゆっくりと首を回してみましょう。
座っているところを中心に、からだ全体をゆらゆらと回してみてください。背骨を柔らかくして、暖かい海の中を漂うわかめになったような気分で、左右に、前後に、ぐるぐると、からだを回してゆるめてみましょう。
気づきの3つの領域
からだがゆるんだら、また楽に座って目を閉じてください。
これから、自分の中と外で起こっていることに注意を向けていく練習をします。
まずは、五感で感じていることを意識してみましょう。五感で感じているのは、今・ここの現実です。
今、どんなことに気づいていますか? どんな音が聞こえているでしょうか? 体育館の床の冷たさを感じていますか? まぶたの裏には何か見えていますか?
足やお尻は、どんなふうに床に接しているでしょうか?
今度は、からだで感じていることや今の気分、気持ちを意識してみましょう。
今、何を感じていますか? からだに不快なところや緊張したところはあるでしょうか。あるとしたら、どんなふうに緊張していますか。
逆にゆるんでいるところはありますか。心地良いのはどこでしょうか。
からだの中に意識を向けると、まだはっきりとした言葉や感情になる前の、もやもやっとした感覚に触れることができます。
自分が何を感じているのか、この状況が好ましいのか嫌なのか、本当はどうしたいのか、そういった心の奥の小さな声に耳を澄ませることは、「ストレス」を抱え込んでしまわないためにも大切です。
では最後に、「今、自分が頭の中で考えていること」に注意を向けてください。
「こんなことをして何かの役に立つのかな、と考えている(ことに気づいている)」
「早く暖かい教室に戻りたいな、と考えている」
「お腹が空いたから何か食べたい、と考えている」
といったように「〜と考えている」とつけ加えると、「思考」とあなたの間に少し距離ができて、「思考」を観察することができます。
大切なことは、「思考は必ずしも現実ではない」ということです。
思考・想像力には羽が生えている
私たち人間の思考や想像力には、「羽」が生えています。
今・ここにないことを自由に想像したり、共有できるようになったのが人間です。この想像力や思考力を使うことで、一億年前の恐竜時代のことを考えたり、宇宙の果てのことを思い浮かべたりできるんです。
でも、同じ思考や想像力の羽が、私たちを苦しめることもあります。
「今回のテストもきっと成績がよくないだろう」
↓
「ということは三年生になってもどうせ成績は上がらないに違いない」
↓
「ということはきっと受験にも失敗するだろう」
↓
「先生や家族、友達みんなからもがっかりされるに決まってる」
↓
「自分はダメ人間だから、これからも何をやっても絶対うまくいきっこない」
↓
「だから進学も就職もできなくて、家からも追い出されるだろう」
なんていう風に、どんどん考えが極端な方向に飛んでいってしまったら、当然、気持ちは落ち込みますし、元気なんて出てきません。
「どうせ」「絶対」「みんな」とか、「こうすべきだ」といった言葉が頭の中を飛び回っているとき、心は「今・ここ」の現実から離れています。
こうした傾向があまりに強くなりすぎると、思考や想像力が自分を縛り、いじめ、傷つけることになってしまいます。
そんなときにはもう一度、からだや呼吸を感じたり、五感で現実に触れることで、今・ここに戻ってきましょう。
すると頭の中の「思考」と少しだけ距離ができて、
「おや、私は今、こんなことを考えてたぞ」と観察したり、
「僕のこの考え方は、自分にプラスになってるだろうか」
「他の見方や考え方はないかな」
といったことを検討しやすくなるんじゃないでしょうか。
狼の戦い
ではもう一度、目を閉じて呼吸を感じてみましょう。そして、心の中にどんな思考や感情、思いがあるか、見つめてみてください。最近の気がかりなこと、困っていること、イライラしたことなどが思い浮かぶかもしれません。楽しかったこと、嬉しかったことを思い出す人もいるでしょう。
これから少し、アメリカ・インディアンに伝わる短いお話をします。インディアンの子どもたちに対して、おじいさんが話したことです。
昔のインディアンの子どもたちなので、皆さんのように学校やテストでストレスを感じるということはないかもしれません。でも、厳しい冬の寒さだとか、ピューマに襲われないかといった、別のストレスはあったでしょう。
ストレスフルな状況では、誰であってもゆとりがなくなり、他人に優しくしにくくなるものかもしれません。
おじいさんは子どもたちに次のように話しました。
「人間の心の中には、狼が二匹住んでいて、いつでも戦っている。
一匹は悪い狼だ。悪い狼は、怒りや妬み、嘘、怠慢、自惚れだ。
もう一匹は良い狼で、それは愛情、希望、思いやり、優しさといった気持ちを表している。
その二匹が、お前たちの心の中で常に争い、戦っているのだ」
子どもたちは次のように尋ねました。
「おじいさん、それでどっちの狼が勝つの?」
おじいさんはこう答えます。
「それは、お前が餌を与える方の狼だよ」
先ほど練習した、「自分の思考を観察する」という方法を使って、皆さんの心の中で戦っている狼も眺めてみてください。
怒りや妬み、嘘などから言葉を発したり、ふるまうのは、悪い狼に餌を与えることになります。悪い狼が大きくなると、なぜか苦しみやストレスも増えていきます。
思いやりや優しさ、希望などから言葉をつむぎ、行動することは、良い狼に餌を与えることです。良い狼が育つと、苦しいことがすっかりなくなるわけではありませんが、苦しさに耐える力も増えていきます。また、苦しさを周りの人と分かち合って、お互い支えたり支えられたり、困ったときに「助けて」と言いやすくなるでしょう。
自分が今、どちらの狼に餌を与えているか、ときどきゆっくり(リラックスして)座ってみて、観察してみてください。