「自分が嫌い」「自信が持てない」--自己肯定感を高めるためにできること

日本の若者の自己肯定感

「自分のことが大嫌い」

「自分なんて生きている価値がないと思う」

このような自己否定や自己嫌悪で苦しんでいる方は多いと思います。

内閣府が行った「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(2018年)によると、日本の若者は、諸外国の若者と比べて、「自分自身に満足している」「自分には長所があると感じている」人の割合がずいぶん低いことが明らかにされています。また、「自分は役に立たないと強く感じる」と感じる若者も半数近くいるのです。

 調査からは、日本の若者は、ボランティアなどの社会参加や海外留学を希望している人なども少ないことが明らかになっています。

 自己肯定感の低さが、社会や他者との関りを消極的にしているということが言えそうです。新しいことになかなかチャレンジできず、失敗に弱かったり、あるいは人の目(他者の評価)を気にしすぎる、といったことにもつながります。

自己肯定感が低い理由は?

では、「自分が嫌い」な人はどうして自己肯定感が低くなってしまったのでしょうか?

両親のかかわり方が、自己肯定感に影響しているという考えもあります。

子どもが自己肯定感を保つには、親の影響、とりわけ母親の影響が大きいと考えられてきました。もちろんそれだけではなく、本人自身の要因や、民族性、環境の影響もありますが、子どもたちは主に愛着の形成時期に、母親もしくは父親が自分をどう見ているかで、自分自身の価値を推し量っていることが多いからです。

自己肯定感「低い子供」が減らない日本の危うさ――「学力低下」や「薬物依存」に陥るリスクが高い | 東洋経済

親が子供に対して抱く期待も、子どもの育ち方にかかわってきます。

ベネッセコーポレーションが日本、韓国、中国、台湾の母親に行なった「子どもに期待する将来像」という調査で「人に迷惑をかけない人になってもらいたい」と答えた割合は、日本71%、韓国24.7%、中国4.9%、台湾25%でした。

日本人の子どもはなぜ、自己肯定感が低いのか?

「人に迷惑をかけない」ということは、「個性を抑え、集団に合うように行動をコントロールすること」を期待しているので、自主的に何かにチャレンジして成功体験を積むことが難しくなってしまうのでしょう。

他にも、日本は「周りと同じ」を求められる同調圧力が強いとか、「世間体」や「他人の目」を気にしやすい、といったことがあると思われます。

また、虐待や家族の依存症(アルコールや薬物など)、親の精神疾患といった、逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences, ACE)も、身体的・経済的・精神的に大きな影響を与えることが知られています。

例えば被虐待体験は、脳の発達に影響を与え、より脅威を感じやすくなったり、報酬を感じにくくなるといったことが研究で確かめられているそうです。

(参考「児童期逆境体験(ACE)が脳発達に及ぼす影響と養育者支援への展望」)

ローゼンバーグ自尊感情尺度日本誌版

自己肯定感のことは、専門的にはセルフ・エスティーム(自尊感情)などと呼ばれています(詳しく言うと、自分を肯定的にとらえる感覚が自己肯定感であるのに対して、自尊感情=自己評価は自分を正しく評価するといったニュアンスがあります)。

「ローゼンバーグ自尊感情尺度日本誌版」という尺度には、次のような項目があります。

  1. 私は自分に満足している。
  2. 私は自分がだめな人間だと思う。(R)
  3. 私は自分には見どころがあると思う。
  4. 私は,たいていの人がやれる程度には物事ができる。
  5. 私には得意に思ううことがない。 (R)
  6. 私は自分が役立たずだと感じる。 (R)
  7. 私は自分が,少なくとも他人と同じくらいの価値のある人間だと思う。
  8. もう少し自分を尊敬できたらと思う。 (R)
  9. 自分を失敗者だと思いがちである。 (R)
  10. 自分に対して,前向きの態度をとっている。

各項目、どれくらい自分の気持ちに当てはまるかを考えて、4段階で評定します。

いいえ(1) どちらかといえばいいえ(2) どちらかといえばはい(3) はい(4)

(R)と書かれている項目は、逆転項目なので、

いいえ(4) どちらかといえばいいえ(3) どちらかといえばはい(2) はい(1)

で評定してください。

ローゼンバーグ自尊感情尺度日本語版の検討

大学生361人に実施したところ、合計得点の平均は、27.93、標準偏差は5.51となったようです。得点が低いほど、自尊感情も低いと考えられます。

この研究によると、自尊感情の高い人は肯定的な出来事や人間関係を体験する傾向が強く、逆に低い人は、抑うつや絶望感などを感じやすいといったことが言えるようです。

自己肯定感を高めるためにできること

自尊心(self-esteem)を高めるための方法って、ネットにはいろんなところに書かれています。でもたくさんありすぎてどれがいいのかわかりにくいですよね。結局、自分にあった方法を探すしかないんでしょうけれども、ヒントになりそうなことをいくつか書いておきます。

セルフ・コンパッション

セルフ・コンパッション(self-compassion)は、「自分への慈しみ、思いやり」といった意味の言葉です。「こうありたい自分(願望や期待)」「こうあるべき自分(理想)」ではなく、「あるがままの自分」を受け入れる、ということですね。

日本心理学会の次の記事では、「セルフ・コンパッションを高める方法」として「慈悲の瞑想」が挙げられています。

セルフ・コンパッションと「あるがまま」|心理学ワールド

「私が幸せでありますように」といったフレーズを唱えていく、といった方法です。

慈悲の瞑想の実践は,まず自分自身の幸せを願うことから始める。身体をリラックスさせ,四つのフレーズを,心地が良いと思う間隔で繰り返す。もし気が散ったとしても,思考や感情だとただ気づいて手放し,またフレーズの繰り返しに戻す。温かく,優しい感情が湧き起こってくることがあるが,それも心に留めておき,フレーズの繰り返しに戻す。慣れてきたら,少しずつ対象を恩人,親しい人,中性の人(ポジティブ感情もネガティブ感情も抱かない人),嫌いな人,生きとし生けるもの……と拡張し,「私の恩人も,親しい人も,知らない人も,嫌いな人も,私を嫌っている人も,生きとし生けるものすべてが幸せでありますように」と願う。

これは、仏教瞑想に由来する方法なので、本格的にやってみたいという人は、日本テーラワーダ仏教協会の慈悲の瞑想のページや、一法庵というお寺の音声インストラクションを参考にしてみてもいいでしょう。

完全主義になりすぎない

もちろん完全主義にもいいところはあります。責任感が強く、理想や目標に向けて最後まで粘り強くがんばる、人の信頼を裏切らない、といったことです。

オリンピックでメダルを取るような選手はみな、こうした傾向をいくらかもっているでしょう。

けれどもあまりに完全主義が強くて、物事を「0か100か」「白か黒か」でしか判断できなくなると、自己批判や自己否定も強くなり、ストレスをため込むことにもつながります。また、完璧にできない自分や他人に対して、不満を抱きやすくなります。

完全主義をやめるには、100点を目指すのではなく、加点方式で少しでもできたところを認めていくといったことが大切です。

「まあ、なんとかなるか」「まあいっか」

とつぶやくことで、完全主義を手放そうとしている人もいます。

どこかの精神科医の先生の本で(すいません、出典を忘れてしまった。まあ、いっか)、「ジャマイカ星人」をしましょうという提案がありました。

「じゃあ、まあ、いっか」と唱えるのだそうな。

『認知療法トレーニング・ブック』には、ユガミンという非機能的思考をキャラクターにしたものが掲載されています。

「シロクロン」というキャラが、物事を「白か黒か」で割り切って完璧を求めさせるユガミンなんだそうです。

シロクロンは、完璧でなければ納得できず、少しでも満足できないと「これは失敗だ」「自分はダメだ」と判断してしまうとのこと。

まずは、「あ、またシロクロンが出てきたな」と自分の頭の中を観察できるようになれば、その影響から少しは自由になれるでしょう。

3つの良いこと

ポジティブ心理学でよく行われるエクササイズに「3つの良いこと」(Three Good Things)というものがあります。一週間、毎日、寝る前にその日良かったこと、うまくいったことと、なぜそれが起こったかを3つ書くという課題です。ポジティブ心理学の大家であるセリグマンによると、このエクササイズを一週間継続した人は、抑うつが低下し、幸福感が上昇したのだそうです。

運動は自己肯定感を高める

『超筋トレが最強のソリューションである 筋肉が人生を変える超科学的な理由』という本がベストセラーになっていましたが、筋トレ以外でも、定期的に運動することは自信や自己肯定感の向上に役に立つという研究はたくさんあります。

うつで休職している人と会う際に、休養の時期が終わったころから、散歩などの軽い運動を勧めることがあります。

歩いている間はネガティブなことをあまり考えないし、景色を見たり、他人と少し話をすることなどで、気分転換になりやすいという人は多いです。

ダンスや武道といった人と関わる運動をすることも、人間関係の質も良くしてくれるので、自己肯定感にいい影響があります。

ボランティアや他人のために何かをする

大学生のボランティア活動に関する研究によると()、ボランティア活動を継続的に行う学生は、ボランティア活動を通して自己肯定感が高まることが確認されました。

自己肯定感を形成する要因としては「自己承認」「他者承認」「相互承認」といったことが考えられるとのことです。

「情けは人のためならず」という言葉が表しているように、それは自分の幸福感や自己肯定感を養うものだと言えます。

「ペイ・フォワード」という映画でも、そんなことが描かれていましたね。

寄付をすると自己肯定感が高まる、なんていう研究もありました。子どもや高齢者、あるいは動物のお世話をすることも、同じような効果がありそうです。

自分を見すぎると、自信もなくなる?

自己肯定感を高めてくれるかもしれない方法を、こうしていくつか挙げてみると、どれも「(理想の)自分へのとらわれ」を手放すことがポイントになっているようです。

以前にも書きましたが、「自分に注意を向けすぎること」(自己への注目)は、不安を生みやすいし、「自分のできていないところ」に意識が向きやすいので、自己肯定感を損なってしまいやすい、ということなんですね。

カウンセリングと自己肯定感

「自分が嫌い」

「自己肯定感が低い」

ことをなんとかしたいと思って、カウンセリングにやってくる方もたくさんいます。でも一方では、「自己肯定感が低いから自分を好きになりなさいと言われても、どうしたらいいかわからないし、かえってしんどくなる」という人も多いのです。

自己否定が強い人の内面には、「批評家」とでも呼ぶことのできるようなパーツがあって、その声が「また失敗するぞ」「調子に乗るんじゃないよ」といつも責めてくると考えることもできます。

内なる「批評家」なんて、いなくなってしまえばいい?

でもその「批評家」のおかげで、これまで大きな失敗をせずに生き延びてこられたということだって事実なわけです。

無理に変化しようとするのではなく、ついつい自分を批判してしまう自分を、「私ってこういうところあるよなあ」と認めるところから、つまり、ありのままの自分でいるところから、逆説的に変化は生じるのです(変容の逆説理論、なんて呼ばれています)。

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