アメリカ心理学会の論文トップ10(2021年)
アメリカ心理学会(APA)のサイトを見ていたら、
The top 10 journal articles
https://www.apa.org/monitor/2022/01/top-journal-articles
という特集がありました。2021年にAPAでは89の学会誌で5000を超える論文が出版されたそうですが、その中から最もダウンロードされた(読まれた)ものを集めました、とのことです。
ランキングとアブストラクトだけ見てみましょう。
デケデケデケデケ、ジャーン!
1. COVID-19 disruption on college students: Academic and socioemotional implications
Tasso, A. F., Hisli Sahin, N., San Roman, G. J.
Psychological Trauma 誌に掲載された、COVID-19による大学生たちの混乱を扱った研究です。学業や社会・情緒生活にどのような影響を与えたか、ということですね。2020年春にパンデミックのために遠隔学習を余儀なくされた米国の大学生257人を対象に調査が実施されました。学生たちは、COVID-19に感染することを恐れ、遠隔学習の難しさや対人関係の断絶、意欲の低下、退屈、不安・うつ・睡眠障害といった苦痛を報告しました。
日本の大学生も同じように大きな不安や苦痛を抱えていた(いる)と思います。大学1年生は、新しい環境になかなか馴染めずに苦労していましたし、4回生は就職活動の難しさを訴えていました。
2. COVID-19 and the workplace: Implications, issues, and insights for future research and action
Kniffin, K. M., Narayanan, J., Anseel, F., Antonakis, J., Ashford, S. P., Bakker, A. B., Bamberger, P., Bapuji, H. Bhave, D. P., Choi, V. K., Creary, S. J., Demerouti, E., Flynn, F. J., Gelfand, M. J., Greer, L. L., Johns, G., Kesebir, S., Klein, P. G., Lee, S. Y., Ozcelik, H., Petriglieri, J. L., Rothbard, N. P., Rudolph, C. W., Shaw, J. D., Sirola, N., Wanberg, C. R., Whillans, A., Wilmot, M. P., Vugt, M.
American Psychologist 誌に掲載されたCOVID-19と職場に関する研究です。リモートワークやバーチャルチームワーク、マネジメント、ソーシャルディスタンス、失業といった職場に関する問題が取り上げられているとのこと。分析によれば、パンデミック後も在宅勤務は継続・拡大するといいます。労働者への影響としては、経済的不平等、孤独、ストレス、燃え尽き症候群、依存症が増加するだろうと予測されています。
カウンセリングでも、リモートワークをしている人から、人間関係の難しさや、生活と仕事のメリハリをつけにくいことなどをよく聞きます。
3. A closer look at appearance and social media: Measuring activity, self-presentation, and social comparison and their associations with emotional adjustment
Zimmer-Gembeck, M. J., Hawes, T., Pariz, J.
第3位。Psychology of Popular Media誌に掲載された「見た目とソーシャルメディア」がテーマの論文です。若い人たちがSNS上で自分たちの身体的外見にどれくらい夢中になっているかということを評価するツールが提示されています。オーストラリアの高校生281人を対象に、SNSに関する21項目のアンケートが実施されました。その結果、SNS上の自己提示、外見に関するオンライン活動(自撮り写真を載せるとかですね)、外見比較の3つのカテゴリーを中心に、項目間の相関が強い18項目が抽出されたとのこと。また、オーストラリアの大学生327人を対象とした研究では、18項目のスコアが、社会不安や抑うつ症状、外見に関する他者からのサポート(ってなんだ?)、対人ストレス、対処の柔軟性、セクシャルハラスメント、食生活の乱れその他などと関連することが明らかにされました。若い女性は若い男性と比べて、外見に関連したSNS活動や外見比較をより多く行なっていることも明らかになったとのこと。
SNSの登場によって、自己イメージの形作られ方も少し変化してきているのでしょうね。
4. When social isolation is nothing new: A longitudinal study on psychological distress during COVID-19 among university students with and without preexisting mental health concerns
Hamza, C. A., Ewing, L., Heath, N. L., Goldstein, A. L.
Canadian Psychology誌に掲載された「社会的孤立」に関する研究です。パンデミック前にメンタルヘルスの問題があった学生と、なかった学生それぞれに、COVID-19が心理的にどう影響したのかという調査です。研究者らは、2019年5月と2020年5月にカナダの大学生773人を対象に、最近のストレスフルな体験と精神的健康状態について調査を行いました。その結果、メンタルヘルスの既往症がある学生は、1年前と比較して、パンデミック初期にメンタルヘルスの改善または同程度の状態を示していることがわかりました。一方、メンタルヘルスに持病のない学生は、持病のある学生に比べて社会的孤立の経験が少なかったためか、パンデミック時にメンタルヘルスが低下する傾向が見られたと、研究者は示唆しています。
メンタルヘルスの既往歴がある学生が、パンデミックによって「改善」したというのは興味深いですね。「自分だけでなく皆が同じように苦しんでいる」という認識が改善に寄与したのでしょうか。
日本でも、緊急事態宣言の際に引きこもりの人が少し楽になった、ということを聞いたことがあります。
5. Trauma-focused cognitive-behavioral therapy (TF-CBT) for interpersonal trauma in transitional-aged youth
Peters, W., Rice, S., Cohen, J., Murray, L., Schley, C., Alvarez-Jimenez, M., Bendall, S.
Psychological Trauma誌に掲載された「トラウマに焦点づけられた認知行動療法」です。transitional-aged youthとは、15歳から25歳までの若者を指す言葉らしい。オーストラリアの若者に、25週間にわたり15回のTF -CBTセッションを行いました。そのうち16名はPTSDと診断されましたが、治療後は16人中15名がPTSDの診断基準を満たさなくなり、うつや不安なども改善したとのことです。
子供を対象としたTF-CBT(トラウマフォーカスト認知行動療法)に関する日本語の情報は、兵庫県こころのケアセンターのサイトで見ることができます。
https://www.j-hits.org/document/child/page4.html
6. Social media use and friendship closeness in adolescents’ daily lives: An experience sampling study
Pouwels, J. L., Valkenburg, P. M., Beyens, I., van Driel, I. I., Keijsers, L.
Instagramなどのソーシャルメディアを同世代と比べて頻繁に利用する青年は、友達をより身近に関しているという、Developmental Psychology誌に掲載された研究です。
“研究者たちは、オランダの13歳から15歳の青年387人に、1日6回、3週間にわたって、前1時間のInstagram、WhatsApp、Snapchatの使用状況と、友情の親密さを感じる瞬間的な体験を報告してもらいました。その結果、信頼感、サポート感、親密感を感じている親しい友人と3週間を通してWhatsAppやInstagramを頻繁に利用した参加者は、研究期間中の友情親密度が同世代の参加者よりも高いことがわかりました。しかし、参加者は1時間前にInstagramやWhatsAppを使用した後、友人との親密感が低下しており、おそらく、友人がすぐに自分の投稿にフィードバックをくれるという期待が満たされなかった結果であると、研究者は指摘しています。Snapchatでは、いずれの関連も見いだせませんでした“
Snapchatなんで? 消えちゃうから?
7. Every (Insta)gram counts? Applying cultivation theory to explore the effects of Instagram on young users’ body image
Stein, J.-P., Krause, E., Ohler, P.
Psychology of Popular Media に掲載された研究です。ドイツの18歳から34歳までの228人に、体重に関する知識、態度、食事制限の変化について訪ねました。その結果、Instagramのコンテンツをより積極的に見ている人、特に女性は、知らない人の体重についてより厳しい見方をしており、食生活も乱れますが、自分の身体に対する満足度の低下はないとのことです。
おやつ食べながらInstagram見て他人の文句を言ってるって感じでしょうか。
8. Nonverbal overload: A theoretical argument for the causes of Zoom fatigue
Bailenson, J. N.
Technology, Mind, and Behavior誌に掲載された「Zoom疲れ」に関するレビュー。理論と先行研究から、話し手ととても近い距離でアイコンタクトすることや、スクリーンに映る自分の姿を自己評価してしまうこと、カメラから見て固定されたところに留まらないといけないこと、非言語的コミュニケーションの負担といった説明がされています。ウィンドウを小さくして顔の大きさを最小にする、セルフビューを隠す、カメラを遠くに配置する、カメラをオフにして音声のみにする、といった解決策が提示されているとのこと。
9. Coping during the COVID-19 pandemic: Relations with mental health and quality of life
Shamblaw, A. L., Rumas, R. L., Best, M. W.
パンデミックの際、回避型のコーピング戦略を用いていた人々はうつと不安が増加したけれど、ポジティブ・リフレーミングなどのコーピング戦略を用いていた人々は精神的健康が良くなったという研究です。Canadian Psychology誌に掲載。米国とカナダのオンラインの被験者797人を対象にコーピング戦略とうつ、不安、QOLなどを尋ねています。1ヶ月後、395人が再び調査を受けました。その結果、ベースライン時の回避型のコーピングは、より高い抑うつ、より高い不安、より低いQOLと関連していることがわかったとのこと。
あと一本。
10. Integrating responsive motivational interviewing with cognitive-behavioral therapy for generalized anxiety disorder: Direct and indirect effects on interpersonal outcomes
Muir, H. J., Constantino, M. J., Coyne, A. E., Westra, H. A., Antony, M. M.
Journal of Psychotherapy Integration に掲載された研究で、全般性不安障害(GAD)の治療のために、認知行動療法に動機づけ面接を加えたら効果がありますよ、というものです。CBTに動機づけ面接を併用することで、人々がより適切に自己主張し、他人の要求に屈しないようにするのに役たつとのこと。カナダのGAD患者85名をCBTまたはMI-CBTによる短期治療にランダムに振り分けて、治療期間中と12ヶ月後のフォローアップで、非主張生と過剰に受容する傾向を測定しています。12ヶ月後には、MI-ABTがCBT単独よりも患者の役に立っていたそう。
さてさてトップ10を見てきましたが、いかがでしたか。
こうしてみると、やはり新型コロナ関連の研究が多かったんですね。後はZoomやSNSなどのテック系。心理学が、それだけ時代の流れとか社会のありように影響を受けているということでしょうか。