睡眠、食事、運動、つながりはメンタルヘルスの基本です
こんにちは。
かささぎ心理相談室です。
今日は、カウンセリングで最初に扱うことの多い「睡眠」「食事」「運動」「つながり」といった話題を取り上げたいと思います。
カウンセリングや心理療法には、たとえば「精神分析」とか「認知行動療法」、あるいは「箱庭療法」「EMDR」とかなんとか、さまざまなアプローチがあります。
たくさんありすぎて、専門家だって全部は知らないのが当たり前です。
でも、私たちカウンセラーがクライエントさんと出会うときに、大事にするのは、「信頼してもらえるような関係づくり」です。これがないと、どんなアプローチも効果はありません。
その次に大切なのは、「アセスメント」あるいは「見立て」です。
「ケースフォーミュレーション」なんて言うこともあります。
大雑把にはどれもまあ似たようなことを指し示しているんですが、クライエントさんの悩みをカウンセラーがどう把握したか、そしてどうすれば改善していくだろうか、という仮説のようなものです。
「いるかさん(仮名)は職場の人間関係で、周りの人の顔色ばっかりをうかがって自分の意見が言えずにくたびれてしまう毎日のようですね。今日お話をお聴きしたことからは、子どもの頃からご両親にひどく叱られたり怒鳴られたりする日常だったとのことで、身の安全を守るために人の顔色をうかがうという能力を発展させてきたんだと思うんですよね。それはすごく意味のあることなんでしょうけれども、今では顔色を見すぎてしんどくなってしまうことが多いようです。過去の親子関係も振り返りながら、今の周りとの関係に適した距離感とか、気遣いを話し合っていくと、日常生活で人と関わるのが少し楽になっていくんじゃないかと思います。そのために、二週間に一回、とりあえず3ヶ月くらいは、こちらにカウンセリングに来ていただいたら、お手伝いできることがあるんじゃないかと思います」
といったことを、たとえば、初回のカウンセリングのときにお伝えするわけです。見立てとかアプローチによって、「毎週一度」になったり、「週4日」となります。
これは何をしているのかというと、「旅のしおり」のようなものを共有して、変化と成長のプロセスを抱えようとしているんですね。もちろん、計画通りに進むことばかりが旅ではないように、カウンセリングのプロセスも、方向転換したり、思わぬ流れになることがあります。それでも、旅を始める前にはまず大まかな見取り図は必要です。
カウンセリングの最初の頃に取り扱うことが多いのは、この記事のタイトルの通り、「睡眠」「食事」「運動」「つながり」といったトピックです。「趣味」とか「楽しみ」などもこれに加わるかと思います。
いずれもセルフケアとか、ストレスへのコーピングに関わることです。
「メンタルヘルス」とか「心理療法」なんていうと、心の内面とか奥深くを探求するようなイメージを持たれることが多いのですが、ちょっとした工夫や環境調整で問題が解決するならその方がいいんだと考えています。
「浅く、短く」
というと「そんなのは心理療法じゃないだろう」と思う人もいるかもしれませんが(特に専門家の方がそう考えがちです)、薬物療法だって手術だって、「あまり時間がかからなくて、痛みとか副作用といった害が少ないのがいい」というのは基本です。
睡眠とこころのケア
心と身体は密接につながっているので(というか、本来は二つに分けることができないものなので)、「心のケア」や「メンタルヘルス」のためにも、まず「身体のケア」は大切です。
睡眠不足は、健康や認知機能にも悪い影響を与えますし、気分もネガティブになります。
十分に眠れていないと、集中力や記憶力、意欲などが低下して、ぼんやりとしんどい一日を過ごすことになります。
脳のグリア細胞は、睡眠中に最も活発に働いて、脳内の老廃物を回収する役割を担っているのだそうです。また、睡眠は、記憶を整理する役割も持っていると考えられています。
だから、「質の良い睡眠」をちゃんと取ることが重要です。
ちなみに、日本人の平均睡眠時間は7.3時間だそうで、中国の9時間、アメリカの8.8時間、フランスの8.5時間などと比べても短いそうですよ。
ストレスや心配事があると睡眠が乱れて、眠れなくなったり、途中で覚醒したり、あるいは悪夢を見ることがあります。
健康的な睡眠のためのコツをいくつか挙げておきます。
・呼吸に意識を集中する。筋弛緩法などのリラックス法を身につける。
・心配事は書き出しておいて「明日にしよう」と言い聞かせる。
・寝る前には、頭が冴えるような活動はしない。
・夕方以降はカフェインをとらない。アルコールはほどほどに。遅い時間に食べない。
・無理に眠ろうとしない(眠れないときには布団を離れて本でも読む)
・眠れなくてもなんとかなる。
・決まった時間に就寝と起床。睡眠の質が上がる。
・布団の中でスマホを触らない。
・日中、長い時間昼寝をしない。適度な運動をする。
・入眠のルーティンを決めておく(本を読むとか、ストレッチをするとか)
睡眠の日記(何時に寝て何時に起きたか。アルコールやカフェインを摂取したか、といった記録)を取ることも、睡眠リズムの改善に有用です。
食事について
世の中にはいろんな食事療法的なものがあって、「これを食べるといい」「あれは食べるな」という意見が飛び交っています。
ひとつひとつを検証することはできませんが、概ね、
・バランスの良い食事を適度に摂る。野菜や果物なども。
・カフェインやアルコーつはほどほどに。
・いつも大体決まった時間に食事をする。
・無理な食事制限をしない。
・水分を十分にとる。
・せかせか食べずに、ゆっくりと味わいながら、できれば誰かと、食事をする。
・ほどほどの量で。間食は控えめに。
といったあたりが共通して大切なことでしょう。
「マインドフル・イーティング」といって、一粒のレーズンやちょっとしたものを、時間をかけて心を込めて味わいながら食すという方法もあります。
たとえば一粒のレーズンを、五感を使って存分に観察し、味わい、ゆっくりと食道から胃袋に送っていく、といったことを丁寧にやるんです。
「食べる瞑想」とも呼ばれていて、血糖値が下がったり、食材本来の味がよくわかるといったメリットもあります。丁寧に味わうとたくさん食べ過ぎないので、ダイエットの効果も期待できます。
メンタルヘルスに大きく関わるセロトニンというホルモン(「幸せホルモン」とも呼ばれています)は、トリプトファンというアミノ酸から作られます。
トリプトファンは、魚や肉、大豆、乳製品、卵、ナッツ、バナナといった食品に多く含まれています。
トリプトファンからセロトニンを合成するときにはビタミンB6が必要で、豚肉やニンニク、生姜などから摂取する必要があります。
だから、メンタルヘルスのためにも、バランスの取れたほどよい食事が大切になってくるんですね。
運動とメンタルヘルス
研究では、運動している人は抑うつ的になりにくいということがわかっています。一週間に2時間以上運動をしているグループは、1年後に抑うつになるリスクが約半分だったそうです(1)。
運動には、こころとからだをリラックスさせ、気分をよくする作用があります。
軽いランニングやダンス、サイクリングなど、有酸素運動が効果的ですが、近所を散歩するだけでも効果はあります。
また、うつ病の患者さん157名を対象に、運動療法を行った群と抗うつ薬投与群、運動と投薬を併用した群を比較した研究があります(2)。運動療法は1回45分、週3回・16週で、ウォーキングもしくはジョギングを行いました。その結果、3群ともに抑うつ症状は改善し寛解しましたが、6ヶ月後の追跡調査では、運動群はより再発しにくい傾向が認められたとのことです。
うつ病だけでなく、不安障害の改善やストレスへの対処法としても、運動が勧められることがあります。
まあ、しんどいときにいきなり運動を勧められてもすぐに取り組むのは難しいかもしれません。
・朝、少し早めに起きて外の空気を吸って、陽の光を浴びる
・ストレッチなどでちょっとだけ身体をほぐす
・家の周りを5分だけ歩いてみる
くらいのことから始めるのでもいいんじゃないかと思います。
身体が慣れてきたら、「気分のいい場所」を探して、そこまで歩いてみてください。
近所の公園や神社など、できれば自然と触れ合えるようなコースを選んでみましょう。
アンデシュ・ハンセン『運動脳』とか、『筋トレが最強のソリューションである』なんてタイトルの本も注目されていますね。
つながり
社会的孤立(社会的な接触がない状態)が、一般的な健康や、不安・抑うつなどのメンタルヘルスに強く関係していることはさまざまな研究で指摘されてきました。
東京都健康長寿医療センター研究所の調査では、精神的健康の悪化を防ぐために、高齢者だけでなく青年や壮年の人たちにとっても、対面接触や非対面接触が有効であることがわかりました(3)。オンラインなどの非対面接触よりも、対面接触の方が良い影響が大きいそうです。
日本には、「孤独・孤立対策担当大臣」がいて、孤独・孤立対策をしているんだそうです(4)。
人間関係で傷ついたり、しんどい思いをした後は、あまり人とかかわらない生活をするということが必要な方もいます。
でも、そうした傷つきから回復するときには、少しずつ、社会的なつながりを再構築していくことも大切です。
・散歩でよく会う人に挨拶してみる
・趣味で人とかかわる
・作業所などを利用する
・自助グループに参加してみる
・グループセラピーに参加する
・ボランティア活動などを探してみる
なんてところから、つながりを持つことで、苦しいときのサポートが生まれるかもしれません。
(1)甲斐裕子, 永松俊哉, 山口幸生, 徳島了. 余暇身体活動および通勤時の歩行が勤労者の抑うつに及ぼす影響. 体力研究. 2011; 109:1-8
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tairyokukenkyu/109/0/109_1/_pdf
(2)Blumenthal JA, Babyak MA, Doraiswamy PM, Watkins L, Hoffman BM, Barbour KA, Herman S, Craighead WE, Brosse AL, Waugh R, Hinderliter A, Sherwood A:Exercise and pharmacotherapy in the treatment of major depressive disorder. Psychosom Med 2007 ; 69 :587-596
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17846259/
(3)<プレスリリース>社会的孤立は、全ての世代の健康に悪影響を及ぼす 高齢者の精神的健康維持には対面接触がベスト、非対面接触のみは次善の策」東京都健康長寿医療センター研究所
https://www.tmghig.jp/research/release/2022/0318.html
(4)内閣官房「孤独・孤立対策」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/index.html