冬の朝、布団からなんとか起き出す魔法

最近、漫画『葬送のフリーレン』をKindleで大人買いして最新刊まで読んだところです。

アニメも全部観ました。

千歳以上生きていて、人の感情がよくわからないエルフのフリーレンが、

新しい人間の仲間と旅をしながら、かつての「勇者一行」の冒険を振り返りつつ人間のことをわかっていく、

という構図になっています。

人を理解してちゃんと別れるために、あるいはちゃんと失うために、もう一度、出会い直している、

というようなストーリーで、この切ない感じが共感されている理由なのかもしれません。

僕らも、ずいぶん後になってから「別れ」や「喪失」を実感することってたまにありますよね。

でも今日は、そういう「別れ」とか「喪失」について書きたいのではなくて、

『葬送のフリーレン』でフリーレンが熱心に収集している「魔法」にちょっと興味があって、という話です。

「温かいお茶が出てくる魔法」

「銅像の錆を綺麗に取る魔法」

「甘い葡萄を酸っぱい葡萄に変える魔法」

「花畑を出す魔法」

「服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法」

といった、「伊藤家の食卓」とか「暮しの手帖」みたいな魔法がちょこちょこ登場しているのが楽しいのです(こういった魔法は、作中では「民間魔法」として分類されています)。

カウンセリングや心理療法というと、「自由連想法」とか「認知再構成法」「夢分析」「エンプティ・チェア」といったような、なんだかすごそうな「技法」が研究されたり、伝授?されたり、研鑽されるというイメージがありますが、

実のところ、日常の「ふつうの相談」では、「うまく寝付けるには」とか「緊張したときの対処法」みたいなTipsを教えたり、いっしょに工夫することも多いのが実際です。

神田橋條治先生の言うところの「コツ」や「工夫」「自助の努力」ですね。

というのが前起きで、今日は「冬の朝、布団からなんとか起き出すコツ」について少し書いてみようかと思います。

というのも、最近、朝が寒くて暗いからか、なかなか布団から起き出せなくて、たまに仕事に遅刻したりして、困っているからです。なので、この「冬の朝、布団からなんとか起き出すコツ」もいわば当事者研究ですね。

朝6時にセットしたスマホがけたたましく鳴り始めます。

うーん、まだ眠い。眠たい。寒いし眠い。

布団から出たくない。

でもアラームはうるさい。

まずは、このアラームを止めよう。

と布団から手を伸ばして、音を止めます。

このまま二度寝の誘惑に引っ張られることも多いのですが、その前に、スマホの隣に置いてあるエアコンのスイッチも入れておきます。

部屋が寒いと布団から出られないですからね。

さあこれで安心、もう一度寝よう。

さっきまでうつらうつら見ていた夢のことなどを思い出しながら、「後でこの夢メモに書いておこう」「いい夢だったからもうちょっと続きが見たいな」などと考えつつ、眠りと目覚めのリンボ界をたゆたいます。

この時間が気持ちいいんだよね。

いやいや、この時間が至福なのはわかるが、貴様には使命というものがあるだろう。

「魔王を討伐する」

といったような勇者の壮大な使命ではないかもしれないが、

今日も何人もの人と会う約束をしているし、待っていてくれる人たちもいるだろう。

そう自分に言い聞かせながらも、再び布団の中に潜り込むのがこれまた快楽。

スヌーズ機能で再度、アラームが鳴ります。

わかったよわかったよ。

これでも僕も一応は社会人だ。

ここいらで覚悟を決めて、起きてやろうではないか。

アラームをもう一度止めたその手をにぎにぎとします。

指先だけでも覚醒させようという涙ぐましい努力です。

ロシア武術のシステマでは、「指先から動く」「先端から動く」ことを教わるのですが、

朝の目覚めも同じで、手の先、足の先からちょっとずつ動かして、だんだんそれを全身に連動させていくのがコツのようです。

指先から伸びをして、足の先っぽも布団から出してみます。

うん、暖房の魔法がちょっと効いてきたようだな。

足の指もにぎにぎしてみよう。

ここでまだ寒かったら、再び布団に潜り込んで、リンボ界に止まります。

それほど寒くないなら、足を伸ばして、左右に転がしてみたり、両膝を立ててみましょう。

片膝の上に、反対側の膝を重ねて、ふくらはぎのあたりをこぞこぞします。

「ゆる体操」の中の「ふくらはぎ膝コゾコゾ体操」みたいな感じでやります。

ついでに、上の膝の重みをかけて、身体を捻って、骨盤から背骨にかけてストレッチ。

全身が伸びたら、ここいらで頭部を布団から亀のように出すのです。

瞼の裏に、窓からの朝の光が入ってきます(前の晩にカーテンをいくらか開けておくと、光が届きやすいですね)。

片目ずつ開けて、眼球から朝の日光をたっぷり浴びます。

視界に入ってくるものをひとつひとつ、確かめてみましょう。

これでもう、あなたは夜の世界の住人から、昼間の世界に一歩踏み出しました。

右か左か、好きな方に寝返りします。できるだけ、力や努力を使わずに、楽に寝返りする方法を探してみてください。

筋力のない赤ちゃんが、寝返りを発見するまでのプロセスを、僕たちは毎朝繰り返しているんです。

ころんと寝返りが打てたら(寝返りって「打つ」ものなんですね。ポンって感じ?)、お尻をあげて、しばしチャイルドポーズ。

ここらでまた二度寝の誘惑に駆られますが、「ゔー」とか「あー」と声を出して、「よっこいしょ」と起き上がります。

起き上がった後は、顔を洗うとか、コーヒーを淹れるとか、いつもの決まったルーティンがあると、

活動に繋がりやすいようです。

庭とかベランダに出て、お日様の光を浴びるのもいいですね。

ユングの出会ったプエブロ・インディアンたちは、毎朝、日の出に向かって儀式をしているから太陽が昇るのだ、と信じていました。

自分が目を覚ますためじゃなくって、太陽を登らせるために毎朝起きるんだ、と考えてみるのも、冬の朝に目覚めるためのコツなのかもしれません。どちらかというとこっちの方が魔法ですね。

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