遷延性悲嘆症とは?死別の苦しみと向き合うためのグリーフカウンセリング

「こんなにも苦しいのは、おかしいのでしょうか?」
大切な人を失ったとき、私たちの心は深い悲しみに包まれます。
涙が止まらない、何も手につかない、眠れない──そんな状態は、ごく自然な反応です。
けれど、
「もう何ヶ月も経つのに、まるで昨日のことのように感じる」
「亡くなった人のことが、ずっと頭から離れない」
「生きている意味を見失いそうになる」
そんな状態が長く続いている場合、「遷延性悲嘆症(せんえんせいひたんしょう)」という状態になっている可能性があります。
この記事では、遷延性悲嘆症とはどのような状態なのか、また、悲しみとともに生きるためにどんなサポートがあるのかを、専門的な知見に基づきながら、やさしく解説します。
もしあなたが今、どうにもならない悲しみの中にいるのなら──
その苦しみには名前があり、そして支援があります。
あなたの悲しみが「異常」なのではなく、「大切な人を本当に大切にしていたからこそ生まれる自然な反応」であることを、まずはお伝えしたいのです。
死別の悲しみはどんなふうに心と体に現れるのか
人は誰しも、喪失を経験すると何らかの形で「悲嘆(グリーフ)」を感じます。
これは精神的にも身体的にも自然な反応であり、決して「弱さ」や「心の病」ではありません。
たとえば──
心に起こること
- 深い悲しみ、落ち込み
- 突然の怒りやイライラ
- 自分を責める気持ち(「もっとこうしていれば…」)
- 不安、孤独感、無力感
- 故人がまだそばにいるような感覚(とらわれ)
体に起こること
- 寝つけない、夜中に何度も目が覚める
- 食欲の変化(過食または拒食)
- 胸の締めつけや息苦しさ
- 音や光に敏感になる
- 常に疲れている、力が出ない
こうした反応は、多くの場合数週間〜数ヶ月かけて少しずつ変化していきます。
しかし中には、「時間が経っても苦しみが和らがない」「日常生活に支障が出る」などの状態が長く続く方もいます。
それが、「遷延性悲嘆症」と呼ばれる状態です。
こんな状態が長く続いているなら、専門家に相談を
以下のような状態が、半年〜1年以上続いている場合は、遷延性悲嘆症の可能性があります。
- 亡くなった方への思いが頭から離れず、何をしていても涙が出てくる
- その人の死をいまだに受け入れられない
- 他の人との関わりを避けるようになった
- 未来に希望が持てない、生きていても意味が感じられない
- 「この悲しみが癒えることは、故人を裏切ることのように感じる」
こうした感情は、故人との関係が深かったからこそ、当然起こりうるものです。
ですが、その状態が長引くと、**うつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)**など、他の心理的問題と重なり、社会生活や健康に影響を及ぼすこともあります。
「時間が解決する」と言われることもありますが、誰にも話せないまま時間だけが経ってしまうと、かえって苦しみが深まってしまうこともあるのです。
こんな言葉がつらく感じるあなたへ
大切な人を亡くしたあと、周囲からの言葉に余計傷ついてしまうことがあります。
- 「時間が経てばきっと楽になるよ」
- 「あの人も、あなたに笑っていてほしいはずだよ」
- 「もう前を向かなきゃね」
- 「そんなに引きずってるなんて、おかしいよ」
そのどれもが「励まし」のつもりであっても、
あなたの悲しみを無視されたように感じたり、
「早く立ち直らなければいけない」と、焦りや孤独を深めることもあるでしょう。
悲しみには「正しい期間」や「こうあるべき姿」などありません。
あなたの悲しみは、とても個人的で、唯一無二のものです。
「こんなに悲しむ自分はおかしいのではないか」
「もう悲しんではいけないのではないか」
そう思っていたとしても──
ここでは、あなたの気持ちそのままを、大切に扱いたいと思っています。
悲しみとともに生きることは「忘れる」ことではありません
「そろそろ元気にならなきゃ」「もう前を向かなきゃ」と、自分に言い聞かせている方も少なくありません。
あるいは、周囲からそんな言葉をかけられて、もっとつらくなってしまった方もいるかもしれません。
でも、本当に必要なのは「早く立ち直ること」ではありません。
それよりも大切なのは、自分のペースで、悲しみと折り合いをつけていくことです。
心理学者J.W.ウオーデンは、悲嘆には次の4つの課題があると述べています。
- 喪失の現実を受け入れること
- 悲しみの痛みを感じ、表現すること
- 故人のいない世界に適応すること
- 故人との新しい関係(心の中のつながり)を見つけること
この過程をすぐに終えられる人など、誰一人いません。
むしろ、何年経っても時折胸が痛む…というのは、ごく自然なことです。
たとえば、「あの人だったらこんな時なんて言うかな」と思い出したり、
命日や誕生日にそっと写真に話しかけたり──。
そうした行為は、故人とともに今を生きる、穏やかなグリーフワークのひとつです。
悲しみは、なくすものではありません。
かけがえのない存在だったからこそ、その人の不在を抱きながら生きていく、それが本当の「回復」なのです。
自助グループやサポート団体など
特定非営利活動法人 グリーフサポート・リヴ
この団体は、毎月最終金曜日に無料の電話相談を実施しています。 女性の方や自死遺族の方を対象に、11:00~22:00の間で相談を受け付けています。
認定NPO法人 国際ビフレンダーズ 大阪自殺防止センター
大切な方を自死で亡くされた方(18歳以上)を対象に、つどいを開催しています。 詳細については、以下の連絡先にお問い合わせください。
全国自死遺族総合支援センター
身近な人を自死で亡くされた方のための電話相談を行っています。 毎週木曜日10:00~20:00、毎週日曜日10:00~18:00に相談を受け付けています。
オンラインわかちあいの会「IERUBA(イエルバ)」
一般社団法人 日本グリーフ専門士協会が主催するオンラインのわかちあいの会です。 身近な人を亡くした方を対象に、毎月複数回開催されています。
兵庫・生と死を考える会 遺族会
自死により家族を亡くして悲嘆にある方のわかちあいの会です。
わかちあいの会・風舎
自死遺族の方を対象に、わかちあいのつどいを開催しています。
神戸・芦屋・西宮のカウンセリングルームでできるサポート
私たちのカウンセリングルームでは、
死別を経験した方や、深い悲しみの中にいる方のためのグリーフカウンセリングを行っています。
● 一人ひとりのペースを尊重したカウンセリング
「何を話したらいいかわからない」「話すこと自体が怖い」
そう感じる方も、どうかご安心ください。
グリーフカウンセリングでは、無理に話すことを求めることはありません。
ただ、そこに誰かがいて、話を聞こうとしてくれる。
それだけで、少しずつ、心の内側が動き出すことがあります。
● 故人との思い出や気持ちを、安心して語れる場
「こんなことを言ったら、変だと思われるかも…」
「まだ引きずってると思われたくない…」
そんな思いを抱えている方も、ここでは自由に感じたままを話すことができます。
泣いてもいいし、笑ってもいいし、黙っていても構いません。
悲しみの表現に“正解”はないからこそ、そのままのあなたでいてほしいと思っています。